マッサンの日記

趣味と備忘録です

one more うまトマ 前編

第一話 桜花抄

ねえ。秒速5センチなんだって。

うまトマの一口目の手のスピード。

 

2024年8月2日

僕は松屋でうまトマハンバーグ定食に出会った。

一目惚れだった。

鮮烈なほどの赤。

妖艶な輝きを放つ肉の塊。

全てを包み込む優しい卵。

完璧な調和。

f:id:massannikki:20240907215500j:image

一口食べた、その瞬間、

永遠とか、心とか、魂とかいうものが何処にあるのか分かった気がした。松屋だ。

 

食べる手は止まらず、暑さと熱さが重なり合い、最後には空っぽの皿とニンニクの薫る汗だくの男だけが残った。

空っぽの皿は空っぽな心。

食べ終えたその瞬間にはうまトマとの再会を待ち望んでいた。

こうして、僕とうまトマは惹かれあった。

 

2024年8月4日

僕とうまトマは新たな一歩を踏み出した。

牛肉のあいがけ。ポテサラトッピング。

f:id:massannikki:20240907220925j:image

危険な、蠱惑的なその姿に、僕は唾を呑み言葉を失った。

きっとミロのヴィーナスを生で見てもここまでは感動しないだろう。

ビールも相まって、僕たちはより濃密に、熱く深く絡み合った。

 

空の皿を前にして、僕は愚かにも、

『次はチーズトッピングだな』

なんて呑気なことを考えていた。

1回目のときほどの寂しさはなく、当たり前に次が来ると思っていた。

 

これが最後であるとも知らずに。

 

2024年8月18日

お盆休み終盤。

実家から戻ってきた僕は、

いつも通りうまトマに会いに松屋に行く。

しかしその姿はない。

松屋は2週間ごとに期間限定商品が発売される。

時間ははっきりとした悪意をもって、

僕たちの間に流れていた。

お盆休みの10日間は、

僕とうまトマを引き裂くには

十分すぎる時間であったことを、

この時理解した。

 

うまトマによく似た姿のメニューを頼んでみた。

大変美味だ。

だが、心に空いた隙間は埋まらない。

シャリピアン?も魅力的だが、

僕の目にはうまトマしか映らなくなっていた。

f:id:massannikki:20240907222629j:image

うまトマはきっと、もう僕と会えないことを分かっていたのか?

なんであのとき、チーズトッピングは売り切れていたんだろうか?

世界が、僕とうまトマの別れを望んでいたのかもしれない。

 

第二話 コスモナウト

どれ程の痛みならば もういちど君に会える

One more time 季節よ うつろわないで

いつでも 捜しているよ どっかに 君の姿を

最寄りの松屋 スーパーの棚 

こんなとこにいるはずもないのに

 

よく夢をみる。

うまトマがグランドメニューになる夢。

うまトマのソースがスーパーで売っている夢。

うまトマをパンやパスタと合わせて、

『やっぱり君にはお米がいちばん似合うね。』

と言うとうまトマは恥ずかしそうに微笑む、あったかもしれない日常の、夢。

 

2024年9月7日

スーパーで見つけた、

うまトマによく似たコンセプトのソース。

ぶっかけトマト。

煽情的な名前だ。

(https://www.kagome.co.jp/products/brand/bukkaketomato/)

ハンバーグと共に購入。

昼食は摂らない予定だったが、我慢できずに調理開始。

ぶっかけトマトはレンジで温めてそのままぶっかけて食べられる。

分かりやすい名前はうまトマと同じで好感が持てる。

ハンバーグを焼き、温泉卵を仕込み、米を炊く。

前戯には時間をかける。

米を盛り、ハンバーグを乗せてぶっかけトマトをかける。温玉を乗せる。

f:id:massannikki:20240907224706j:image

トマトとニンニクの薫り。

再会を喜びつつ一口。

甘いトマトとほんのりニンニクが香る。

これは美味しい!レンジで温めるだけでこれは便利だ。

サラサラしているから、パッケージ写真のように

麺に絡めたり、揚げ物にかけたりしても良さそうだ。

トルコライスとかにかかってたら最高だろうなぁ。

 

 

違和感。何かが違う。

温泉卵が緩い?ハンバーグがパサついてる?

それは些細な問題だ。

うまトマのソースはあらゆる違和感を全て打ち消すだけの力がある。

ニンニクのライブ感が足りない。

トマトの酸味が足りない。

ソースに具材感が足りない。

足りない。足りない。足りない。

心は満たされない。

大変優秀なソースだがうまトマではない。

どれだけ愛を育もうとしても、

僕とぶっかけトマトの距離は近づかない。

 

僕は、ぶっかけトマトそのものを見ていない。

ただ、虚空を、うまトマを、見ていた。

 

(続)